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2020.03.27

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広島県の日本酒の魅力は「米」にあり。
日本三大銘醸地・西条の蔵元が語る!
広島“酒”コラム 第三回 賀茂泉酒造・蔵元に聞く 前編

観光で訪れたい都道府県ランキングでは毎年上位に位置し、景勝地やご当地グルメにあふれた広島県。特に、県中域に位置する西条は、兵庫県の灘と京都府の伏見に並んで「日本三大銘醸地」に数えられているなど、国内有数の酒どころでもあります。そんな広島県の日本酒にはどのような魅力があるのでしょうか。西条に酒蔵を構える賀茂泉酒造の4代目であり、若手蔵元の全国組織「日本酒造青年協議会」で会長を務める前垣壽宏さんに話をうかがいました。
前編では、広島県の日本酒の美味しさを生み出している「米」の魅力について、伺います。

「純米酒」の先駆けとなった賀茂泉酒造

「賀茂泉酒造は1912年(大正元年)に創業しました。西条には、私たち以外にも賀茂鶴酒造や賀茂輝酒造(現在は廃業)など、ここ一帯の地名であった『賀茂郡』から名前をつけた酒蔵が多いんです。歴史を遡ると、かつては京都にある神社の荘園だったようですね」

賀茂泉酒造の4代目・前垣壽宏さん

賀茂泉酒造の代名詞といえば「純米酒」。元来、日本酒は米・米麹・水のみを原料として造られていましたが、「醸造アルコール」と呼ばれる、でんぷんや糖を含んだ原料を発酵させて蒸留したアルコールを添加するものもあります。
現代におけるアルコール添加は酒質の安定化や向上を目的としたものがほとんどですが、特に太平洋戦争などの戦時中は慢性的な米不足を補い、税金の徴収源としてのニーズを保つための策でした。
しかし、戦後になり米の供給も安定していくと、「本来の米・米麹・水のみを使った酒造りを再開し、戦争の騒乱で失われていた各酒蔵の個性を取り戻そう」という声が、全国の若手醸造家から出てきました。賀茂泉酒造の2代目である前垣さんの祖父もそのひとりだったそうです。

趣のある賀茂泉酒造の入り口

「そうして1965年頃から純米酒造りに着手し、1972年に弊社の代表商品として発売したのが『本仕込 賀茂泉』です。当時はまだ『純米酒』というカテゴリーがなかったので、アルコールを添加していないことを示すために『無添加酒』と掲げていました」と、前垣さん。
お客さんからのニーズもあり、現在は普通酒も造っているそうですが、賀茂泉酒造は純米酒中心にいち早くシフトしていった酒蔵だったのです。

幅広い気候のなかで生まれる個性豊かな酒

広島県の気候といえば、みなさんどんなものを想像するでしょうか。
牡蠣やレモンなどの特産品から、瀬戸内海沿いの温暖な気候を思い浮かべることが多いかもしれません。しかし、前垣さんは「広島県は気候に富んだ場所なんです」と話します。
「個人的な意見ですが、ひとくちに広島県の日本酒といっても『こういう傾向がある』というのは語れないと思っています。逆に言うと、バリエーションが豊かなんですよね」

賀茂泉酒造の屋上からみた西条市内の風景

「安芸津や竹原などのエリアは、みなさんがイメージしている温暖な気候に当てはまります。しかし、ここ西条などは山に囲まれたエリアで、冬場には降雪も日常的。山間にある庄原市などには、豪雪地帯に指定されている町もあるんですよ」
広島県の北部は日本海が近いために日本海側と同じような気候で、冬は雪が多く、夏は晴天が多い地域。他の地域は1年を通じて晴天が多く降水量の少ない、瀬戸内海特有の気候です。
瀬戸内海の気候は基本的に乾燥していますが、これは北に中国山地、南に四国山地があるために日本海からの湿った空気が遮られるからだそう。独特の地形が、さまざまな気候を生み出しているのです。
また、県内にはりんごを栽培している地区もあるのだとか。沿岸部の温暖な地域ではレモンが育つ一方、山間部では暑さに弱いりんごが育つ。県内でも気候の差は激しく、それゆえに特産物のバリエーションが豊かなのだと前垣さんは教えてくれました。

同じ西条市内にある賀茂鶴酒造

「今田酒造本店や竹鶴酒造など、暖かな瀬戸内海の気候に恵まれた酒蔵。私たち賀茂泉酒造や賀茂鶴酒造、白牡丹酒造など、どちらかというと冷涼な西条の酒蔵。そして、比婆美人酒造や生熊酒造など、県でもっとも寒いエリアで酒造りをする酒蔵......ひとつの県のなかでも、かなりの違いがあるんです」
「広島県のお酒といえばこういうもの」 と言い切らずに、幅広い気候のなかでそれぞれの個性を活かして造られているのが広島県の日本酒の特徴なのかもしれません。

広島県を代表する酒米「八反系」

バリエーションの豊かな気候と土地によって、軟水〜中硬水が湧く広島県。第二次世界大戦によって工場地帯となったエリアもありますが、戦前は全国有数の農業地帯でした。農業地ゆえに、ローカルな酒米も育てられてきたのだそう。
広島県の酒米として代表的なのは、県が独自に開発した「八反系」。また、全国的に広く使用されている山田錦や雄町の栽培も盛んで、農林水産省の資料によると、ここ数年、都道府県別の酒米生産量では毎年トップ10に入っています。

広島県の酒米「八反錦一号」の田んぼ

「県独自の酒米でいうと、『八反35号』など、いわゆる"八反系"の品種が有名ですね。『中生新千本(なかてしんせんぼん)』という広島県の酒米を母に、山田錦を父にもつ『千本錦』という酒米も代表的です。昼夜の温度差が大きい山間部が、酒米の主な産地として知られています」
八反系の品種には、他にも「八反錦」があります。八反錦は精米しすぎると割れてしまうこともある繊細な酒米ですが、ふくよかで上品な味わいのお酒になることが特徴です。
八反系のルーツは「八反草」という品種だそうで、背丈が高く栽培が難しいため、姿を消していった"幻の酒米"でした。しかし、安芸津に蔵を構える今田酒造本店が独自に復活させ、現在では八反草で酒を造る唯一の酒蔵となっています。
千本錦は"酒米の王様"とも呼ばれる山田錦を、広島県の気候風土に適するように改良することを目的として育成されました。香り高く、すっきりとした味わいのお酒になりやすいと言われています。

「中生新千本」も広島県を代表する酒米である

賀茂泉酒造も広島県産の酒米を積極的に使用しているそう。お酒のほぼ全量を県産の酒米で造っています。八反錦など、精米に対して繊細な品種もありますが、前垣さんは「そんなに米を磨かなくてもいいんじゃないかな」と話してくれました。
「贅沢に造られた、芸術品のような吟醸酒には独自の素晴らしさがあります。しかし、米をたくさん磨いて、マイナスの温度で厳重に保管して……というお酒は、造るのにも、品質を保つのにもエネルギーを使ってしまいます。私としては、大らかに米の特性を活かしたお酒を造りたい。環境への配慮や持続可能性を考えると、そちらのほうが良いのではないかと考えています」

県民に深く愛される、広島県の日本酒

「広島県は県民の一体感が強い土地だと思います。スーパーに行くと、県内の酒蔵で造られたお酒がずらりと並んでいることが多いんです」と、前垣さん。
地域ごとに気候や水質の差が大きい広島県。それなのに、県としての一体感が強いのはなんとも不思議です。
「太平洋戦争で大きな影響を受けたことや、広島カープやサンフレッチェ広島など、地のスポーツチームが根付いていることが理由かもしれない」と、前垣さんは教えてくれました。

澄んだ空に伸びる賀茂泉酒造の煙突

最後に、「酒造りは人間がするものに見えますが、お酒そのものは微生物の発酵によって造られるもの。特に、お酒の香りには酵母のキャラクターが大きく影響します。酒造りにおいて大事なのは、微生物たちが生き生きと発酵してくれることです。彼らが『最後までやったぞ!』と言いきれるようにサポートするのが人間の役割ではないでしょうか。もちろん、微生物たちはそんなことを声には出しませんが。大らかな気持ちで、お酒を造ってくれる"生き物たちの命を全うさせる"ようなお酒を造っていきたいですね」とも話してくれました。
広島県の豊かな自然の恵み。その力をあるがままに活かしているからこそ、県民の多くから支持を集め、なおかつ全国にその魅力が伝わっているのかもしれません。エリアごとにさまざまな特色がある広島県の日本酒を、まだまだ追いかけてみたくなりました。


TEXT BY SAKETIMES

「蔵元に聞く」後編を読む

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※写真はすべてイメージです。

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