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2020.03.31

  • sake

呉の米を、呉の水で、呉の蔵が醸す
口に含むと“風土を感じる”酒
これぞ日本酒版テロワール
広島“酒”コラム 第六回

「テロワール」という言葉をご存知でしょうか。ワイン用語で、ブドウが育った地域の気候や土壌、地形、水など、その土地特有の風土を大切に醸造するという概念を表しています。近年、蔵元や農業関係者の新たな試みによって、日本酒にもテロワールの考え方が広がり、広島でも、地元の米と水にこだわった酒造りが行われています。

日本有数の軍港として栄えた広島県呉市は、古くから県内屈指の酒処であり、現在も名だたる酒蔵が点在しています。呉の農家が育てた酒米を、呉の水で、呉の蔵が醸す“呉の風土を湛えた酒造り”に、情熱を燃やす人たちがいます。ことの始まりは10数年前のこと。農家の高齢化や後継者不足による遊休農地を活用するため、市が動いたことがきっかけです。呉市農林水産課が「オール呉産の日本酒を造ろう!」と呼びかけ、「宝剣酒造」に酒造りを、郷原地区の農家に酒米の栽培を、JA呉に育苗を依頼し、2011年に挑戦が始まりました。

栽培する酒米は広島県が開発した「八反錦」。入手したわずか200グラムの種籾を増やすところから始め、0.6ヘクタールの農地に田植えをしました。呉市では本格的な酒米栽培をした前例がなく、当初は何もかもが手探り。飯米と酒米との生育状況の違いに戸惑いながらも、土壌改良や水の管理などに取り組み、「やれることはすべてやる」「絶対にいい米を作る」という情熱を実らせ、2011年秋、初めての収穫に漕ぎ着けました。この米を、呉の「未来」と「希望」への願いを込めて「呉未希米(くれみきまい)」と名付けたのは、酒造りを担う「宝剣酒造」の蔵元兼杜氏、土井鉄也さんです。「農家さんのご苦労を知っているだけに、絶対に失敗するわけにはいかないと、酒造りに臨みました」。そして2012年春に完成したタンク1本分の純米酒は、軽快ながら米の旨味が豊かに感じられる酒。1.8リットル換算で約1200本が瞬く間に売り切れ、話題となりました。

背後にそびえる野呂山からの水の恩恵を受ける未希米。田は山々に囲まれた豊かな自然環境の中、育てられている。

野呂山中腹の鉢巻展望台から、安芸灘とびしま海道を望む

その後、JA呉が専用の乾燥調整施設を整備し、作付面積も拡大したことによって収穫量が増加し、2016年からは相原酒造も参加することに。「呉未希米の品種は八反錦ですが、まったく別物かと思うほどに素晴らしい米です。お陰で呉の人に自信をもって出せる酒ができました」と社長の相原準一郎さん。そして2017年から加わった榎酒造の社長、榎俊宏さんは「しっかり米の味がする、フルーティーでやさしい酒になりました」と、笑みを浮かべます。

現在は約3ヘクタールの農地での呉未希米を栽培し、収穫量は約15トン。出荷数は3蔵合わせて約5000本(1.8リットル換算)。異常気象による猛暑や集中豪雨など、農家にとって厳しい状況が続いていますが、田植えや稲刈りには蔵元たちも応援に駆けつけ、農家とともに汗を流し、「呉ならではの風土を感じる酒を醸したい」という情熱を共有しています。販売ルートを担う老舗酒店「山城屋」の土谷顕禎さんは、「蔵元と農家の距離がこんなにも近い酒造りは他にないと思います。県外や海外の人にも、もっと知ってもらいたいですね」と話します。宝剣酒造の「宝剣」、相原酒造の「雨後の月」、榎酒造の「華鳩」という、全国的にも知られる人気の酒蔵が、同じ米で醸す純米酒。それぞれの蔵の個性で表現された味わいを、飲み比べてみるのも楽しみです。

3つの銘柄は、ラベルでも呉の風土を表現しています。

呉市の花、椿をイメージした華やかな真紅のラベル
宝剣酒造「宝剣 呉未希米 八反錦 純米」

きらめく瀬戸内の海をイメージした紺碧のラベル
相原酒造「雨後の月 呉未希米 八反錦 純米」

水面に映る朝日や夕陽をイメージした山吹色のラベル
榎酒造「華鳩 呉未希米 八反錦 純米」

TEXT BY TJ Hiroshima-タウン情報ひろしま

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※写真はすべてイメージです。

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